譜面ソフトの Sibelius と Dorico はどちらが優れているのか、両方のソフトを比べ、良いところ悪いところをピックアップしてみたいと思います。海外ではDoricoだろ、っていう人が多すぎて正直びっくりしていますが、ここは公平にレビューしたいと思います。まず大前提として、SibeliusもDoricoもPianoスコア、バンドスコア、オーケストラスコアなど、よく使いそうな譜面は問題なく制作することができます。ただ、現代音楽的な特殊なアプローチは正直どちらも良いとは言えないと思います。

(1)どちらが安定して動いているか。(とても重要)
自分はフォントやレイアウトなど、自分が見やすいようにかなり細かなところまでカスタマイズします。(デフォルトの設定ではSibeliusもDoricoも使い物にならないくらい譜面が読みにくい)そうしたことから、いろいろな部分を細かく触るのですが、Doricoの方がハングする(止まってしまう)バグが多い気がします。(表示系バグもかなりあります)Sibeliusは滅多にハングすることはありません。その点においてはSibeliusの方がバグが少なく現時点では安定していると言えます。

(2)好みのレイアウトに瞬時に変更できるか。(これもとても重要)
SibeliusにはHouse Styleという機能があり瞬時にフルスコア、パート譜に設定を読み込むことができます。これは各五線の間隔やフォントの設定や文字の大きさ、プリントアウトする用紙の設定など譜面に関する全てのレイアウトが含まれます。Doricoにも同様に自分が決めたレイアウトを読み込むことが可能ですがフォントの設定や記譜設定などを読み込む「ライブラリーマネージャー」とページ自体の設定(タイトルの位置や作曲家、編曲家などのページごとのレイアウト)を読み込む「ページテンプレート」の2つを読み込まないといけません。しかも、自分が調べる限りパート譜において「ページテンプレート」を反映させるには一楽器ごと設定をインポートしなければいけません。これがめちゃくちゃ面倒臭いし時間が掛かります。(一括で出来るのかな? 調べた限り無理でした、只今、Steinbergに問い合せ中)この仕様は、Doricoの大きなマイナス点です。ただ、Doricoは設定を読み込む時にかなり細かく選択できますので、必要のない設定は読み込まないようにすることが可能です。Sibeliusも選べますが項目が少しだけ少ない感じです。

(3)プリントアウト
Sibeliusのプリントアウトは本当にいけてない。どちらにしても一度PDFに書き出してまとめてプリントアウトするのですが、Sibelius上では両面印刷もプリンターによってはちゃんと動きません。しかし、Doricoの印刷セクションはとてもわかりやすく、試してみた限りではちゃんと両面印刷できました。

(4)リハーサルマーク
レコーディングやコンサートにおいてはリハーサルマークはとても重要です。Sibeliusではフルスコアとパート譜で大きさや位置などの設定が個別にできます。Doricoは文字の大きさは変更できるものの初期設定の位置はフルスコアとパート譜で同じ設定を使うため別々の位置に設定できません。見栄えがあまりよくありません。リハーサルマークの設定は「レイアウトオプション」に加えていただき、フルスコアとパート譜で別々に位置を設定できるようにして欲しい。

(5)細かな表記
Doricoの素晴らしいところはやはり新しい思想でつくられたソフトだけあって非常に柔軟です。たとえば、トリルマークを入力したときに、全音なのか半音なのか間違えないように補助で臨時記号が自動で付きます。また、記譜についてのオプションが多く、本来、人手でやる面倒なところもDoricoが自動でやってくれます。しかもメニューがとてもわかりやすい。この点はSibeliusも見習って欲しいところですね。

(6)UI
UIに関しては正直どっちらもあまり使いやすいとは言えません。SibeliusはWordやExselのように上部にリボンとして表示されています。これが非常に使いづらい。この仕様はSibelius7からなのですが、本当にSibelius6のUIに戻して欲しいくらいです(Sibelius6は使いやすかった)。そもそも、Plug-inのアイコンが色々なタブにバラまかれていて、どのプラグインが何処にあるのか見つけるのも容易ではありません。本当にイライラします。DoricoのUIはとてもよくまとまっていて素晴らしいのですが、一つだけイケてない部分があります。それは、音符入力用のUIは左側にあり、音部記号や調号、ライン(トリルやクレッシェンドなど)のUIは右側にあります。この目の移動が4Kのディスプレイを使っていると非常に疲れるのです。(目が乾く)この部分だけはどうしてこうなった?って思えるほど酷いと思います。Cubaseも似たような部分があって拘りのドイツ人が作ったとは思えないほどUIが使いづらい。作業的にはこれらの記譜の部分のUIはくっつけるか、Sibeliusのように音符入力用のUIは取り外し可能にして自由な場所に移動、配置できるようにして欲しい。そうするだけでかなり使いやすくなりますし、疲れも軽減されると思います。

(7)プレイバック
これは圧倒的にDoricoが良いと思います。特にテンポチェンジはシーケンサーのように細かく設定できます。(譜面の見た目はritのみで変化無しなのも良い)特に映像と細かく合わせなければいけない時はテンポトラックが重宝します。そして、ダイナミックスなども普通のシーケンサーのように音符ごとに細かく設定できます。SibeliusはGraphical MIDI Toolというプラグインを入れれば多少は細かく打ち込めますが、使い勝手はあまりよくありません。再生に関してはDoricoの方が良いと感じました。

(8)おまけ
Doricoに素晴らしい機能があります。それは「コンデンシング」という機能。これはFlute 1, Flute 2でフルスコアに分けて書いたとして、コンデンシングというモードにすることにより一瞬でフルスコアにてFlute 1-2と合わさって表示されるモードです。パート譜は各楽器ごとに出力しなければいけないので大元の譜面は分けて入力します。しかし、指揮者などが見る譜面は段が多いと見にくいので段をまとめる必要があります。それがコンデンシングモード。Sibeliusはそもそも出来ないので最初からコンデンシングされた譜面を書いてからパート譜で分けるか、各楽器に分けられたフルスコアを手作業でまとめるか、最悪、あきらめて段の多い譜面をそのまま使うかしかありません。こうしたところはDoricoの方が後発のソフトだけあってとても融通が利いています。

(9)総評
Doricoにしかない便利機能も沢山あり、さすが最近の譜面ソフトだなと思えます。ただ、細かなところでまだまだ使い勝手が悪い部分も見受けられ、今後の改善を期待したいところ。特に上記にあげたパート譜の「ページテンプレート」の読み込みに関しては一括で出来るようにしてもらいたい。いくつもある楽器に対して一つずつテンプレートを読み込むのは流石に時間の無駄ですししんどい。(レイアウトオプションの設定は一括で出来るんですけどね)まずはここを早急に対応していただきたい。Sibeliusに関しては設計が古くなってきているので、UIを含め一度大きな手を加えないとDoricoに追い抜かれてしまうかと思います。正直、資金、プログラマーの数、開発スピードから言うと、スタインバーグの方が分があるので、AVIDもしっかりと頑張っていかないと今のSibeliusユーザーを間違いなく失うことになると思います。ということで、PianoやバンドスコアなどはDoricoでも十分すばやく綺麗が楽譜が作れると思いますがオーケストラ譜を作る上ではパート譜作成の仕様が現時点では致命的なので正直厳しいのかなと思います。(まースクリプトを組めばいけると思いますが・・・それはそれで大変)ですので、オーケストラの譜面作成なら現時点ではSibeliusを選んだ方がいいのかなと思います。自分はどちらも使いこなせるよう日々勉強していきたいと思います。この記事が少しでも参考になれば・・・。また、間違っている部分があったり、これは出来るよ!っていうのがあれば是非教えてください。ご連絡をお待ちしています。